作品
有川ひろ『塩の街』
デビュー作
角川文庫 自衛隊3部作の1作め。
この『塩の街』という作品は、誰かのデビュー作という想像を超えていると思う。
漫画の『ワンピース』がデビュー作だと聞いた時にびっくりしたように。
物語の世界が非現実なのに、現実にあるかのように不安定要素がないという事。
不安定要素がないので、違和感なくその物語に入っていける。
完璧に造られた世界。
あれ?このカーテンの隙間から向こう側の現実と繋がってない?
と思うような要素が一切なかった。
不思議すぎる世界なのに、完璧すぎるが故に我にかえる隙を与えないという。
読み終わってその世界を眺めてみると、スノードームを俯瞰で眺めている感覚に陥る。
大体の内容
ある日、不思議な現象が起きる。
突然、あらゆるものが塩に変わる、塩害がおきる。
なぜそうなるのか、食い止める方法はあるのか。
どの範囲で被害は進んでいるのか、どうすれば助かるのか
解らないまま、パニックになっていく。
世界のなんの機能もきかないまま、私たちはどうやって生きていくのだろう、
大切な人をどうやって守っていくのだろう。
時が過ぎれば解決するものなのか、いつまで隠れていれば良いのだろう。
誰が助けてくれるのだろうか。
専門家にその責任を押し付けて。
感想
ここまで書いてみると、2020年から始まった今の現状と何が違うだろうか。
この物語は、陸上自衛隊員と一人の少女のストーリーに沿っていくわけだけど、
その世界に自分がいたらなんて、読んだ時には考えた事もなかったけれど、
切り離していた物語の世界も何ひとつ非現実ではなかったのだなと、今になって思う。
いつも物語を読んだ後、数年してようやく、これは現実の世界でも有り得る出来事だったのだと思い返す事がある。
有川ひろさんの他の作品でもそう思った事があるのだ。
『図書館戦争』なんて、まさに、リアルのニュース報道を観ながら
あ、現実におきてしまった。みんな気付いているのかな。
と感じた事を今でも忘れられない。
作家さんにはそんな役割もあって、そういう気付きを与えられる職業なんだと感心もしてしまった。
塩の街は、今 が読むタイミングかもしれない。
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